CREATIVE BOOK「首都圏人」:首都圏に居住する人々の、クリエイティブな暮らしを支援する生活読本

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長井長義公開フォーラム

公開フォーラム4

つづいて、東京大学薬学部の学生、職員が、非常に世話になり、いま、また高度なガラス器具の製作に励んでいる桐山製作所の桐山弥太郎さんを紹介したいのです。
桐山さんは私と年齢はほぼ同じ、私は東京のはずれ、池袋から北西の地に生まれましたが、桐山さんは銀座の生まれで、子供のころは銀座のビル街を遊び場にしていたとか、伺いましたね、桐山さん。彼は、あるとき、何故か本郷にやってきて、赤門を入って東大薬学の建物の前に立ち止まったのです。次の場面に移るまでのストーリーはあとで彼に語ってもらいましょう。さて、そのあと、彼は、東京大学薬学部の屋上の一角にあった小屋の一隅を作業場として、ガラス細工を始めたのです。ここでガラス器具製作の名門、桐山製作所が生まれたのです。彼は、もともとヨーロッパ、おそらくスイスの ETH(高度のテクニカル研究所)などで使われ始めた、当時は恐ろしく高価であった「共通擦り合わせ」ガラス器具の製作に取組み、見事、安価な国産品を独力で作り上げました。ガラス器具を繋ぐユニバーサルな擦り合わせシステムは、その後実験室で組み立てられる装置をスマートなものとしました。その恩恵は計り知れません。

桐山弥太郎氏(桐山ガラス器械製作所社長)以下 桐山氏
原先生からの依頼で、うちのガラス製品をもってきましたので、皆様に見て戴きたいと存じます。これが共通擦り合わせガラス器具です。

コーディネーター:原 昭二
そしていま映写している写真の右は、最近の桐山製作所の傑作、「バイオエタノール」の蒸留装置です。



桐山氏

この蒸留装置では、水を除去して、99.9%のエタノールを製造することができます。

コーディネーター:原 昭二
写真左は、「桐山ロート」と呼ばれて、ひろく使用されるようになった器具です。

桐山氏
皆さん以前は目皿ロートというのを使われていましたが、目皿をつくる立場になると、あの小穴が沢山開けられたお皿を作るのは大変な作業なんです。ところが或る日、私はマンホールに水が流れ込むさまを見て気付き、新しい発想をもってこのロートを作り出したのです。
先ほど原先生が、何故東大薬学部に作業場をつくったか、というお話しを出されましたが、じつは私が東大赤門から、何となく入りました所には、「医学部薬学科」という看板が掛かっておりました。丁度通りかかった赤星先生(のちに放射線医学研究所長の赤星三弥先生)から声を掛けられました。当時は戦争帰りの方が多い世の中のこと、細かいことは云わず、ガラス細工ができる、って聞いて、そんなら明日からガラス細工をやりに来い、とい

う即決で、翌日から私は東大薬学のお世話になることになったのです。ただし条件が付きます。ガスは無料にするが、しかし学生の器具は安くする、また修繕は無料という、学生へのサービスです。
ここで、私から皆さんにお願いがあります。うちには今、ガラス細工を修行中の者が大勢いますが、学術研究には、ガラス器具は不可欠のもの、このことを皆に自覚して欲しいと思って、うちの社のものを今日ここに連れてきました。ガラス屋という職業は、縁の下の力もちです。これからも、日本の薬学のために是非がんばって欲しいと、皆様から激励して欲しいと存じます。

コーディネーター:原 昭二
また先生は歴史にも興味を持たれ、ご自身で「鬼平散歩」というHPを公開、薬学の開祖である長井長義を語る詳しい紹介も有ります。小倉先生、一言お願いできませんか

ここには北里大学名誉教授、東京大学薬学部、薬化学出身の小倉先生がお見えですが、小倉先生は桐山さんのガラス器具の厄介になったことは有りませんでしたか。
小倉先生は、かねてより糖類の化学という領域で活躍され、その中でも、古代の霊薬として知られる燕窩(つばめの巣)の成分の「シアル酸」の研究に打ち込んでおられます。



小倉治夫先生(北里大学名誉教授)
桐山さんのガラス器具は大いに使わせて戴きました。またコーディネータの原先生は薬化学の先輩であり、しっかりご指導を戴きました。原先生が「首都圏人」第4号で「北里柴三郎」を取り上げられた折り、私は北里大学に関連して、いくつもの質問を受けました。長く北里大学におりましたから、協力した次第です。
シアル酸についてですが、その誘導体が、最近大きな話題となっているインフルエンザ・ウイルスの特効薬となり、新薬創製をリードする化合物としてにわかに脚光を浴びています。シアル酸をキーとする薬品の開発によって、間もなく、わが国の有力な製薬会社より、インフル治療薬が発売される見込みです。シアル酸に由来する新薬の開発は、目を離せなくなると思います。
なお「アル酸研究会」の会長を務められるのは、先ほどお話しをされた、山川民夫先生です。



コディネーター:深瀬 克
同じくコーディネーターである原さんと私は、じつは同じ町、志木市に住んでいます。小学校も、高校も同窓で、原さんは先輩になります。そこで今小倉先生のお話しにあった、原さんが編集し、発行するシリーズの本の「首都圏人」(第一期完結、1〜8号)の査読を引き受けさせられました。
また原さんが代表理事をつとめる、NPO市民フォーラムが発行する地域紙「市民プレス」の記事の記事を書くよう、しばしば仕事を頼まれます。
ここで、このたびの新書判「この人長井長義」(Creative Book No.9)に続く予定の近刊の新書について紹介させて戴きます。
新書、Creative Book No.10 は「橋梁物語り-隅田川を遡る-」、No.11 は「山の手物語り」、NO. 12 は「かいじろう詩画集」の出版が予定されています。是非皆様に期待して戴きたいと存じます。
ところで原さんの家は、古い薬屋さんで、建物七棟が、国の登録文化財となっていますが、皆様ご覧のように、専門の薬学のみならず、広範な文化に触れることがお好きなようですし、また地域のまちずくりにも活動しています。

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